チャタレイ夫人の恋人 (新潮文庫)

チャタレイ夫人の恋人 (新潮文庫)

パブリッシャー
新潮社
価格: ¥900

チャタレイ夫人の恋人 (新潮文庫)のレビュー

ロレンスの思想がたっぷりつまった知的な小説
この小説で私が面白いと感じたのは、チャタレイ夫人の愛人となる森番メラーズのキャラクター。
メラーズはただの使用人ではなく、かつてはインドの軍隊で将校だったこともある教養人。
チャタレイ夫人との会話では、時には方言まる出しの下品な言葉使いかと思えば、知的な紳士の言葉使いになったりして、読者を混乱させる。(そこのところを原文と読み比べてみるのも面白いかも)また、夫人との関係を足がかりに出世を目論んだり、大金を手に入れようなどという野心はまるでなく非常にストイックな価値観を持っている。
本書については大胆な性描写の事ばかりが注目されてしまいがちだが(現代のものと比べたら大したことはない)、性についての議論ばかりではなくロレンスの様々な思想がたっぷりつまったとても知的な小説。
愛とは何か?
辞書によると、『対象をかけがえのないものと認め、それに引き付けられる心の動き。また、その気持ちの表れ。』という事になります。その「愛=かけがえのないもの」とは何か?どんなものであるのか?どのようなキッカケでそうなり得るのか?またその事に気が付いた人々はどうなっていくのか?を描いた小説。とても意義のある大変面白い小説です。また、作者の構成力も、ストーリー、そのディテール、描写、どれも大変素晴らしかったです、これについては訳者の方も素晴らしいと思いました。

階級社会の生活、機械社会の、また拝金主義の蔓延に繋がっていく流動性がある社会の中で「愛」の重要性に図らずも気が付いてしまった夫人のとてもリアルな心の動きが良かったです。下半身不随の夫がすがらなければならない権威と精神生活では得られない肉体的快楽との対比や、生活のためのお金と贅沢のためのお金の対比、保守的なものと保守的さえ超えた原始的とも言って良い生活の対比、その他にも非常に多くの生活、社会全般の様々な事に焦点を当てながらも、究極の生きていける目的のような「愛」を獲得していこうとする主人公を取り巻く動き、描写、様々な人物の心情までもがとても細かく、それでいてそれぞれが納得できる、作者の都合だけで動かされない小説です。素晴らしいです。


昔の感覚ではワイセツにあたるか論争があったようですが、それを判断するのはそれぞれの読者であって、小説であればたとえどんな内容でも特に規制する必要は無いのではないかと。今では「美しい」とさえ言えるのでは。ワイセツを誰が定義するかですよね?これがワイセツなら、今はワイセツな本だらけになっちゃいますし、それでも良いと思います。規制されるより。
素敵です♪
大胆な性的描写が問題となり、1950年に猥褻文書販売罪で起訴された作品ですが…いや、全然猥褻じゃないです。(当時の時代背景がそうだったのかもしれませんがもっと激しいものもいっぱいあったのではないかとはなはだ疑問が残ります)

別に性描写自体もそんなに激しいものではないですし、ロレンスは性描写を描きたかったわけではなく、男女の恋愛を描く上で大切な行為としてのセックスを描いたのではないかと思う。

そこにばかり注目せずに全体的に読み込んで欲しいです。
身分社会がまだ根強いイギリスで貴族の女性が自我に目覚めて己の恋愛を生きようとするすばらしい文学作品だと思います。
性的不能の夫との結婚生活を欺瞞と感じたチャタレイ夫人が森番と関係を持ち真実の愛に目覚める(女性の自己の現れ)という構成はロレンスすごい!と感服。

私はチャタレイ夫人と森番の葛藤と苦悩、そして世間の目などと戦う二人の愛の描写に感動しました。

こんなに文学的価値の高い作品を猥褻文書販売罪にしてしまうなんて当時の日本の文学意識が低かったのか、当時の風潮で仕方なかったのか知りませんがこの作品を完本として堂々と読める時代に生きることができて幸せです。みなさんも是非ロレンスの世界を堪能してください。
「ワイセツ」ではなく、崇高な「宗教的恍惚」を描いた傑作
これが「ワイセツ文書か否か」で裁判されただなんて、今となっては昔の法曹界も随分「アタマのお固い人々」の集まりだったのだなあと感じさせられます。
「物質文明と人間の本能的自然との対立」なんていう風にまとめてしまうと、とてもありがちなテーマなのですが、これがちゃんと文学として読む人を感動させるのは、何よりもその文章表現力のたまものでしょう。この小説ほど、「セックス」を描いて美しく、宗教的恍惚にまで高めてしまっている描写には未だお目にかかったことがありません。男女の性愛って素晴らしいなあ、と、つい説得させられてしまいます。ちなみに、因習に反逆する主人公の姿は、有島武郎の小説「或る女」にも通じるものがあります。この日英二大長編を読み比べてみるのも面白いかも知れません。
惹かれあうふたつの孤独な魂
 大学の授業でロレンスの別の作品が出てきたのがきっかけで、この本も読んでみました。
 スキャンダラスな逸話にちょっとびくびくしていたのですが、描写自体は今日まったく問題にならない程度のものでした。もちろん、肉体も愛と理解のためには重要な要素である、という意味で、性描写がけっこう出てきますが。

 おどろいたのは、よく言われてきた「夫がだめになったので身分の低い肉体派の森番と云々」というのがまったく間違いだったこと。
 森番メラーズは生まれた階級は低いが、才能と努力と幸運な出会いによって教養を身につけた紳士で、体格はそれほど立派じゃない上に大病の後遺症でむしろ病弱。軍隊から帰ってみれば、同じ階級の家族や隣人とは話す言葉も関心事も価値観や倫理観も違ってまるで話が通じない。それで森番という孤独な仕事を選んだのでした。
 コニーも、負傷した夫は代償行為か非情な金儲けに邁進するようになり、上流階級の知人たちの無理解から、孤独に苦しんでいた。

 読後感はむしろ、孤独なふたつの魂が惹かれあった、美しい恋愛小説でした。